僕の音楽ルーツ(その2)
前回はこちら。
その、見たことのない楽器は、オクターブずれた鍵盤が2段あり、さらに1オクターブ分の鍵盤状のペダルがあり、スイッチやらカラフルなレバーがいっぱい付いていて、一体何がどうなっているのかわからない、奇妙な物だった。
そう、それは、その頃から徐々に普及していく電子オルガン、YAMAHA のエレクトーンであった。
おそらくその後僕が移籍した教室にあったものと思われる、D-3R。
一目見ただけでピアノではないことを不満に思いつつ、弾いてみるとピー・ポー・ブーと4歳児もガッカリするほどのチャチな音!
とりあえず30分か1時間、おとなしくレッスンを受けたが……。
帰り道、そして家に帰っても、僕は母に不満をタラタラ言い続けた。
「ピアノじゃないじゃないか! あんな変な音の楽器は嫌だ! あれじゃベートーヴェンは弾けない!」
母はピアノとエレクトーンの違いがよくわかっていなかったのか? ……と思った。
父の方が詳しかった。
「エレクトーンの方が、色々な音が出て、楽しいじゃないか」
「でも、ピアノの音が出ない!」
「エレクトーンは、新しい楽器だよ。これからどんどん使われるようになる。弾けるようになっておいた方がいいよ」
「でも、ベートーヴェンの曲が弾けない! ベートーヴェンはピアノの曲は作ったけど、エレクトーンの曲は作ってない!」
「いろんな曲がエレクトーン用にアレンジされて弾けるようになるよ。クラシックも、歌謡曲も」
「でも僕はベートーヴェンのピアノソナタを、アレンジじゃなくてそのままピアノで弾きたいんだ!」
「エレクトーンはペダルがあるけど、ピアノにはないだろう? エレクトーンを弾けるようになれば、ピアノはペダルは使わないから、簡単だろう?」
「ピアノはペダルがないから、両手だけでベースも和音もメロディーも弾くんだ。ピアノの方が難しいから、ピアノを習わなきゃいけないんだ! それに、エレクトーンは鍵盤で強弱が付けられない! エレクトーンを習ってもピアノは弾けない!」
「ピアノは近所迷惑になるけど、エレクトーンならボリュームを小さくできるし、夜でもヘッドホンで練習できるでだろ?」
「夜は弾かない! 昼間に練習する!」
……と、今思い出しても、とても4歳児とは思えない反論を繰り広げた。(笑)
僕があくまでもエレクトーンではなくピアノを習いたい、という意思を変えないので、ついに母は観念して実情を吐露した。
「ピアノは高くて買えないのよ」
「じゃあ、分割で買えばいい!」
それでも食い下がらない、恐るべき4歳児!(笑)
当時すでにテレビの通販が始まっており、高額な物でも分割で月々の小さい負担で買えることを知っていたのである。
親もほとほと困ったようだったが、
「分割にすると分割手数料が付いて、合計は高くなるし、払えなくなると品物を取り上げられた上に払った分は返してもらえないし、信用がなくなって、その後分割で買えなくなってしまうんだぞ」
と、世の中の厳しい仕組みを教えてくれた。(笑)
もちろん、テレビ通販の金額を見て、合計が高くなることは知っていたが、リスクは知らなかった……。
「信用がなくなって分割払いができなくなると、今後車を買い替えられなくなるし、家の建て替えもできなくなるんだぞ」
「……」
もはや、何も言い返せなかった。
さすがの駄々っ子でも、納得せざるを得なかった。
今だからこそ、ピアノは中古で安く手に入るが、当時は高度経済成長期。裕福な家庭は新品ピアノを買う一方であり、手放す人はまだいなかったのだ。
「エレクトーンを習っておいて、大きくなってやっぱりピアノを習いたかったら、習えばいいよ」
と言われ、観念して、エレクトーンを習うことにした。
数週間、おもちゃのオルガンで練習していたが、僕がちゃんと通うようになったのを確認してから注文したのだろう、エレクトーンがやっと我が家に届いた。
おそらく我が家で買ったものと思われる、B-6R。発売開始 1972/5 発売時価格 ¥230,000
今調べて当時の価格を見てみたら、両親は相当無理して買ってくれたんだと思った。
発売開始からほぼ1年の機種だ。そんなに安くはなっていなかったはずだ……。
当時父は29歳、電気工事の自営業で、急増する住宅の工事で忙しく、稼いではいたと思うが、当時の物価は記憶によると国鉄(現・JR各社)の初乗り料金が大人30円、首都圏の路線バス均一料金も大人30円! 公務員大卒初任給は47,200円! *1
そんな時代の23万円と言ったら、一体……?
それを、現金一括払いで買ってくれたのである。
45年も経った今、改めて両親に感謝である……。
僕は何だかんだ言っていたものの、この新しいエレクトーンを喜んで弾き、12歳でやめるまで8年間、いや、やめた後も弾き続け、8歳下の妹も習い始めて使い、いい加減最新機種を買わないとどうにもならなくなるまで14年間、一度も故障することなく愛用され続けたのである。
HS-8 発売開始 1987/5 発売時価格 ¥835,000 オプションでフロッピードライブを付けた。
今、この価格を見てさらに驚いた……。
この最新機種は妹のために買ったものだが、僕もちょこちょこいじっていて、FM音源の音作りを学ぶことができたのだが、それは後の話……。
(つづく)
写真提供:electone-maniax~旧き良き時代のエレクトーン~写真使用許可をいただきました。ありがとうございます。
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